助成金ガイド

人材開発支援助成金を日本語研修に使うときの判断基準

厚生労働省の人材開発支援助成金は、職務に関連した訓練を実施した事業主に、訓練経費と訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。令和8年度の人材育成訓練は経費助成率45%(中小企業)、賃金助成 1人1時間あたり800円。ただし制度の一次資料に「日本語」という語は一度も出てきません。出てくるのは「日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習」は助成対象外、という一文のほうです。つまり日本語研修が対象になるかどうかは、制度名ではなくカリキュラムが職務に直接関連していると示せるかで決まります。判断するのは労働局であり、研修会社でも当社でもありません。

執筆:United World 編集部(ユナイテッドワールド株式会社)/公開 2026年9月1日
本記事の数値・要件はすべて厚生労働省の一次資料に基づきます。出典:令和8年度版 人材育成支援コースのご案内(令和8年8月3日版)および支給要領(令和8年8月3日版)(いずれも確認日 2026年9月1日)。両資料は本記事が引用した箇所において一致しています。制度は年度内にも改正されます。申請前に必ず出典先の最新版をご確認ください。

令和8年度 人材育成訓練の助成率・助成額

日本語研修を検討する企業が使うのは、人材開発支援助成金のうち「人材育成支援コース」の「人材育成訓練」です。10時間以上のOFF-JTを実施した場合が対象になります。

経費助成率(正規雇用労働者等)中小企業 45%/中小企業以外 30%
経費助成率(有期契約労働者等)70%
賃金要件・資格等手当要件を満たす場合上記に 15% を加算(正規:中小60%・中小企業以外45%/有期85%)
賃金助成額(1人1時間あたり)800円/中小企業以外 400円。要件を満たす場合 1,000円(500円)
経費助成の限度額
(1労働者1訓練あたり)
実訓練時間数 10時間以上100時間未満:15万円(10万円)
100時間以上200時間未満:30万円(20万円)
200時間以上:50万円(30万円)
賃金助成の上限時間数1労働者1訓練あたり 1,200時間
支給申請回数1労働者につき一の年度あたり 3回まで
支給限度額1事業所につき一の年度あたり 1,000万円

括弧内は中小企業以外(大企業)の率と額です。企業規模は支給申請時点で判定されます。eラーニングと通信制による訓練は経費助成のみで、賃金助成の対象外です。オンライン研修を検討している場合、この一行が資金計画に効きます。

解説記事の多くは賃金助成額を「1人1時間あたり760円」と記載しています。令和8年8月3日版の一次資料の額は800円です。助成金の記事は改正のたびに古くなるため、金額は必ず出典先の最新版で確認してください。本記事もその例外ではありません。

「日本語研修に使える」と書かれた記事が省いている一文

人材開発支援助成金のパンフレットと支給要領を検索しても、「日本語」という語は現れません。日本語教育を名指しで対象にした制度ではないからです。代わりに、助成対象とならないOFF-JTの一覧に次の記載があります。

3 趣味教養を身に付けることを目的とするもの
(例:日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習、話し方教室 等)

厚生労働省 人材開発支援助成金(人材育成支援コース)支給要領 令和8年8月3日版/同ご案内 表1

「使える」と書いてある記事も「使えない」と書いてある記事も、どちらも正確ではありません。正確には、職務に直接関連する内容として設計された日本語教育は対象になりうるが、日常会話の習得を目的とした講習は対象外です。同じ「日本語研修」という商品名でも、カリキュラムによって結論が変わります。

隣接してもう一つ、日本語研修でつまずきやすい除外規定があります。

2 職業又は職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの
(例:接遇・マナー講習等社会人としての基礎的なスキルを習得するための講習 等)

同 表1

外国籍社員向けの研修は、ビジネスマナーや報連相の型をカリキュラムに含めることが多くあります。この部分は原則として助成対象外です。ただし案内には、この項目に該当する時間がOFF-JTの実訓練時間数の半分未満であれば助成対象になる旨の注記があります。マナー部分を全体の半分未満に抑える、という設計上の制約として読むのが実務的です。

なお、対象外に該当する時間はカリキュラム全体の一部であっても実訓練時間数から除外して数えます。除外したうえで10時間以上が必要です。

「職務に直接関連する」を設計に落とす

労働局は雇用契約書と訓練カリキュラム等で職務との関連性を確認します。追加の資料提出を求められることもあります。したがって関連性は、研修を始めてから説明するものではなく、カリキュラムに最初から書いておくものです。

カリキュラムに書くべきこと

「日本語会話 全20回」では、日常会話の講習と区別がつきません。誰のどの業務のために、どの言語運用ができるようになる訓練なのかを、職務の語で書く必要があります。たとえば製造現場であれば作業指示の復唱と異常報告、介護であれば申し送りと記録の記述、営業事務であれば見積書と社内稟議の読み書き、というように、対象労働者の職務内容と対応させます。

この作業は研修会社が代わりに考えることはできますが、雇用契約書に書かれた職務と一致していることを確認できるのは企業側だけです。見積りを依頼する前に、対象者の職務を1行で書き出しておくと、そのあとが早くなります。

実施方法にも要件がある

助成対象とならない実施方法の一覧には、日本語研修に直接効くものが3つあります。

  • 就労の場で行われるもの。事務所・営業店舗・工場など場所の種類を問わず、営業中の生産ラインまたは就労の場で行われる訓練は対象外とされています(eラーニング・通信制を除く)。講師派遣型で自社内で実施する場合、実施場所と時間帯の扱いを労働局に確認してください。本記事の確認範囲では、社内の会議室を業務から切り離して使う場合の可否までは読み取れませんでした。
  • 年次有給休暇を与えて受講させる訓練は、適切な方法でないものとして対象外です。
  • 講師の要件。訓練指導員免許を有する者、または当該教育訓練の科目・職種等の内容について専門的な知識・技能を有する講師により行われないものは対象外です。東京都の助成金とは異なり、この制度は日本語教員の資格を名指しで要求してはいません。

手続きで落ちる要件

内容が対象でも、手続きの前提を満たしていなければ受給できません。訓練を始める前に確定しておく必要があるものだけを挙げます。

  1. 雇用保険適用事業所であること

    受講する労働者も、その事業所の雇用保険被保険者である必要があります。

  2. 職業能力開発推進者を選任していること

    研修や人事の担当課長等から選任します。未選任の場合は計画届の提出日までに選任します。

  3. 事業内職業能力開発計画を策定し、労働者に周知していること

    これも計画届の提出日までに済ませます。日本語研修だけを扱う書面ではなく、事業所全体の能力開発計画です。

  4. 計画届を訓練開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ提出

    期限は「1か月前まで」だけではありません。早すぎても受け付けられない期間があります。研修の開始日から逆算してください。

  5. 訓練期間中も賃金を適正に支払い、経費を全額負担する

    訓練経費は支給申請日までに事業主が全額支払い済みである必要があります。助成は後払いです。

  6. 受講時間を記録する

    通学制・同時双方向型の通信訓練では、受講時間数が実訓練時間数の8割以上である受講者が対象になります。出欠と時間の記録は研修会社に発行を依頼できます。

申請そのものは事業主が行うものです。手続きの代行は社会保険労務士など資格を持つ者の業務であり、研修会社が代行することはできません。研修会社に依頼できるのは、カリキュラム、受講記録、請求書など、申請に添付する書類の提供までです。

東京都の助成金との違い

都内の中小企業であれば、東京都の「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」も候補になります。性格がかなり違います。

人材開発支援助成金(国)東京都の助成金
日本語教育の扱い名指しの規定はなく、職務関連性で判断「日本語教員による日本語教育」を対象として明記
講師の要件科目について専門的な知識・技能を有する講師出入国在留管理庁の告示基準に定める日本語教員の要件
地域限定なし都内中小企業等
事前手続き訓練開始の6か月前〜1か月前に計画届交付決定より前の研修は対象外

日本語教育そのものを対象として明記しているのは東京都のほうで、要件は講師側に厳しく設定されています。国の制度は対象範囲が広い代わりに、職務関連性の説明が企業側の仕事になります。同一の経費に複数の助成を重ねて受けることは通常認められません。制度の全体像は 日本語研修に使える助成金 に整理しています。

そもそも研修が課題への答えになっているかは、助成金より前に決まる話です。外国籍社員の定着と日本語 では、研修で解ける課題と解けない課題を分けています。

よくあるご質問

日本語研修は人材開発支援助成金の対象になりますか。

制度の一次資料に日本語教育を対象と明記した規定も、対象外と明記した規定もありません。「日常会話程度の語学の習得のみを目的とする講習」は趣味教養として対象外と定められているため、職務に直接関連する内容として設計されているかどうかで判断が分かれます。最終的な判断は労働局が行います。

オンラインの日本語研修でも助成されますか。

eラーニングおよび通信制による訓練は経費助成のみで、賃金助成の対象外です。同時双方向型の通信訓練は通学制と同じ扱いで、1コースあたりの実訓練時間数が10時間以上であることが要件になります。

自社の会議室に講師を招く形は対象になりますか。

助成対象とならない実施方法として「就労の場で行われるもの」が挙げられています。場所の種類を問わないと書かれている一方、業務から切り離した実施が可能かどうかまでは一次資料から読み取れませんでした。実施場所と時間帯を具体的に示したうえで、計画届の提出前に労働局へご確認ください。

研修会社に何を確認しておけばよいですか。

職務に対応したカリキュラムを作成できるか、受講日・受講時間・受講者名がわかる記録を発行できるか、講師の専門性を書面で示せるか。この3点です。申請の代行は依頼できません。

ビジネスマナー研修を含めても問題ありませんか。

職業人として共通して必要となるものは原則として助成対象外ですが、該当する時間がOFF-JTの実訓練時間数の半分未満であれば助成対象になる旨の注記があります。カリキュラムの構成比を意識して設計してください。

助成金の活用もあわせてご相談ください

対象になりうる制度と、職務に対応したカリキュラムの組み立てについてご説明します。計画届の期限から逆算すると、検討を始める時期が決まります。

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