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「報連相ができない」の多くは、姿勢ではなく水準の問題です

報連相を国の枠組みに置き換えると、必要な日本語の水準が具体的に出てきます。文化庁の「生活 Can do」一覧は、職場でのやり取りを能力記述文として並べており、そこでは「トラブルの内容と自分の対応を上司に正確に報告し、質問に答え、指示を受ける」はB2、「トラブルの内容を説明して対処を相談する」と「業務内容と連絡事項をある程度詳しく日報に書く」はB1に置かれています。一方A2でできると書かれているのは、「会議で自分に向けられた短い簡単な質問に答える」「やり方を見せながら短い簡単な言葉で確認する」までです。日本語力がA2の社員に報連相を求めると、本人の意欲とは関係なく成立しません。

執筆:United World 編集部(ユナイテッドワールド株式会社)/公開 2026年9月1日
水準の記述はすべて文化庁の一次情報に基づきます。出典:文化審議会国語分科会日本語教育小委員会「地域における日本語教育の在り方について(報告)別冊『日本語教育の参照枠』に基づく『生活 Can do』一覧」(令和4年11月29日)(確認日 2026年9月1日)。

まず、何を参照しているのか

「日本語教育の参照枠」は、文化審議会国語分科会が令和3年10月12日に報告した枠組みです。日本語能力の熟達度をA1からC2までの6段階で示し、能力を「何ができるか」という記述文(Can do)で表します。その参照枠に基づいて作成されたのが「生活 Can do」一覧で、令和4年11月29日に日本語教育小委員会がまとめました。収録レベルはA1・A2・B1・B2(B2は一部)です。

この一覧には「Ⅵ 働く」という大分類があり、その下に次の小分類が置かれています。報連相に関係するのは、主に(25)と(26)です。

小分類内容
(22)就職活動をする
(23)労働条件について理解する
(24)職場の安全を確保する
(25)個別業務を遂行する
(26)協働業務を遂行する
(27)勤務評価に対応する
(28)職業能力の開発を行う
(29)事務機器等を利用する
(30)職場の人間関係を円滑にする

出典:同一覧「生活上の行為の分類一覧」(確認日 2026年9月1日)。

報・連・相を、記述文に置き換える

「報連相ができない」は評価であって、観察ではありません。同じ場面が一覧のどこに置かれているかを見ると、求めている水準がはっきりします。

水準一覧に置かれている記述(要約)報連相との対応
A2職場の定期的な会議で、自分に向けられた短い簡単な質問に答えたり、人の助けがあれば自分の考えを示す会議に同席できる
A2備品の補充方法などが分からないとき、実際にやり方を見せながら、短い簡単な言葉で合っているか確認するその場での確認
B1上司や同僚から、これから担当する業務の手順や注意点についての説明や指示を聞いて理解する(はっきり話されれば)指示を受け取る
B1勤務明けに、その日の業務内容や連絡事項を、ある程度詳しく日報に書く連絡
B1自分では解決できないトラブルのとき、同僚や上司に電話し、内容をある程度詳しく説明し、どう対処すればよいか相談する相談
B2取引先とトラブルがあったとき、どのような内容か、自分がどう対応したかを上司に正確に報告し、質問に答え、今後の対応について指示を受ける報告

この並びが意味しているのは、報連相が単一の技能ではないということです。連絡と相談はB1、報告はB2に置かれています。報告だけが一段上にあるのは、起きたことの説明に加えて「自分がどう対応したか」を筋道立てて述べ、その場で質問に答え、指示を受け取るところまでが一つの行為として書かれているためです。

出典:同一覧 Ⅵ 働く/12 仕事をする/(25)(26)(確認日 2026年9月1日)。表の記述は紙幅の都合で要約しています。原文は出典先をご確認ください。

A2とB1を分ける言葉は「順序立てて」

同じ一覧の「(24) 職場の安全を確保する」には、同じ出来事についての報告が2つ、水準を変えて並んでいます。

工場内などで近くにいる人が事故に巻き込まれたり、けがをしたとき、けがの状態や発生時の状況などを上司に短い簡単な言葉で報告することができる。

A2

工場内などで近くにいる人が事故に巻き込まれたり、けがをしたとき、けがの状態や発生時の状況を上司などに順序立てて報告することができる。

B1

書く場面でも同じ対比が置かれています。「誰と、何をしたかなど日常的な業務について、日報や報告書に短い簡単な文で書く」がA2、「いつ、どこで、何が起こったかなどの経緯をある程度詳しく、順序立てて日報や報告書に書く」がB1です。

つまり、A2とB1を分けているのは語彙量ではなく出来事を順番に並べて述べられるかです。人事の方が「報連相が来ない」と言うとき、実際に起きているのはたいてい、断片は伝えられるが順序立てられない、という状態です。これは同じ枠組みの中で、医療の場面でも同じ形で現れます(「症状や体調の変化について、順序立てて説明することができる」がB1)。分野が違っても、A2からB1への境目は同じ性質のものとして書かれています。

この整理を、職場でどう使うか

1. 「報連相をしてください」を、場面と水準に置き換える

求めているのが日報なのか、トラブル時の電話なのか、上司への口頭報告なのかで、必要な水準はB1とB2に分かれます。全部まとめて「報連相」と呼んでいる限り、できているかどうかも判断できません。

2. B2を求める場面を減らせないか先に見る

一覧でB2に置かれている報告は、「自分がどう対応したか」まで含む形です。対応の判断を本人に委ねず、テンプレートで「いつ・どこで・何が・自分がしたこと・判断を仰ぎたいこと」の順に書かせるだけで、求める水準はB1側に下がります。これは日本語研修ではなく職場側の運用で解ける部分です。

3. 研修で解くなら、対象は「順序立てる」練習

語彙や文法の底上げではなく、起きたことを時系列に並べて述べる練習が、A2とB1の境目に直接効きます。業務で実際に起きた場面を素材にすると、そのまま業務で使えます。

研修で解ける課題と、職場側の運用で解くべき課題の切り分けは 外国籍社員の定着と日本語 にまとめています。受け入れ直後に企業側が何をすべきかは 外国籍社員の入社90日 をご覧ください。

この整理の限界

「生活 Can do」は「生活者としての外国人」を対象に作られた一覧で、職場の場面も含まれてはいますが、業種別・職種別の網羅を意図したものではありません。また参照枠そのものは、事業主が採用や配置の基準として使うことを想定した文書ではありません。ここで示した水準は、社内で「何ができれば報連相が成立するか」を共通の言葉にするための目安として使えるものであり、個人の評価基準として用いるべきものではありません。

当社が研修を通じて何か月でどの水準に到達するかについては、公表できる実績値がありません。到達までの期間は対象者の現在地・業務内容・受講頻度によって変わるため、断定的な数字はお出ししていません。

よくあるご質問

報連相ができないのは、文化の違いが原因ではないのですか。

両方が同時に起きていることが多く、切り分けが必要です。指示を「提案の一つ」と受け取るような理解の枠組みの違いは、日本語力が上がっても解消しません。一方、順序立てて述べられないという形で現れるものは水準の問題で、こちらは練習で変わります。同じ「報連相が来ない」でも、対処は別になります。

JLPTのN3やN2と、この参照枠のレベルは対応しますか。

本記事の確認範囲では、文化庁の一覧にJLPTとの対応表は示されていません。JLPTは試験の合否で示される資格、参照枠は「何ができるか」で示される記述であり、測っているものが異なります。社内で水準を共有する目的であれば、資格名よりも「日報を順序立てて書けるか」のような行為で表現したほうが判断がぶれません。

日報のテンプレートを整えるだけで改善しますか。

改善する部分はあります。順序を書式で与えれば、本人が順序を構成する負荷は下がるためです。ただし口頭での報告や、その場で質問に答える場面には効きません。書面と口頭のどちらで詰まっているのかを先に確認することをお勧めします。

どの水準を採用の基準にすればよいですか。

参照枠は採用や配置の基準として使うことを想定した文書ではないため、そのまま基準に転用することはお勧めしていません。実務上は、その職務で必要な場面を3つほど挙げ、それぞれが一覧のどのあたりに置かれているかを見るほうが、社内の合意が取りやすくなります。

研修はどのくらいの期間で効果が出ますか。

当社として公表できる到達期間の実績値はありません。対象者の現在地、業務内容、受講頻度によって変わるため、ヒアリングのうえで見込みをお伝えする形にしています。断定的な期間をお示ししないのは、根拠のない数字を基準にした計画がかえって判断を誤らせるためです。

「何ができれば成立するか」から研修を設計します

報告・連絡・相談のどの場面で詰まっているかをお伺いしたうえで、順序立てて述べる練習に絞るのか、職場側の書式で解くほうが早いのかを含めてご提案します。

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