育成就労ガイド
育成就労で受入企業に課される日本語教育の義務は、2つの100時間です
育成就労制度で受入企業が負う日本語教育の義務は、運用要領のうえでは2つに分かれます。入国後講習の日本語科目として受けさせるA1相当講習100時間以上(A1相当の試験に合格していない場合)と、3年の育成就労期間中に受講機会を提供するA2目標講習100時間以上です。後者は費用を企業が負担し、受講機会を与えなかった場合は育成就労計画の認定の取消し等の対象と明記されています。よく見かける「320時間」「220時間」は入国後講習の総時間数であって、日本語の時間数ではありません。この2つを混同すると、必要な日本語研修の量を3倍に見積もることになります。
執筆:United World 編集部(ユナイテッドワールド株式会社)/公開 2026年9月1日
本記事の時間数・要件はすべて一次情報に基づきます。出典:出入国在留管理庁・厚生労働省編「育成就労制度 運用要領 ~関係者の皆さまへ~」(令和8年8月)(確認日 2026年9月1日)。運用要領は改訂されます。実務判断の前に必ず最新版をご確認ください。
混同されているのは、総時間数と日本語の時間数です
入国後講習には日本語以外の科目も含まれます。総時間数と日本語科目の時間数は別の数字で、二次情報ではしばしば同じものとして扱われています。
| 何の時間か | 時間数 | 条件 |
|---|---|---|
| 入国後講習の総時間数 | 320時間以上 | A1相当の試験に合格していることを証明できない場合 |
| 同上 | 160時間以上 | 上記のうち、入国前過去6か月以内に160時間以上の入国前講習を受講した場合 |
| 入国後講習の総時間数 | 220時間以上 | A1相当の試験に合格していることを証明できる場合 |
| 同上 | 110時間以上 | 上記のうち、入国前過去6か月以内に110時間以上の入国前講習を受講した場合 |
| そのうち日本語科目のA1相当講習 | 100時間以上 | A1相当の試験に合格していることを証明できない場合は必須 |
| A2目標講習(就労期間中) | 100時間以上 | 3年の育成就労期間中。A2相当試験に合格済みなら義務なし |
実施時間が8時間を超える日は、8時間で計算されます。「一定の日本語能力」は通常、日本語教育の参照枠のA1相当ですが、育成就労産業分野によってはより高い水準が求められる場合があるため、分野別運用方針の確認が必要です。3年間で到達を求められる水準は通常A2相当で、これも分野により上振れします。
出典:同運用要領 第4章(入国後講習・日本語科目・A2目標講習)(確認日 2026年9月1日)。
企業側の義務として書かれていること
A2目標講習は「受講機会の提供」が義務で、費用は企業負担
運用要領は、育成就労実施者すなわち受入企業の義務としてこう書いています。
育成就労実施者には、育成就労の目標である日本語能力の試験を受験させるまでの間に、育成就労外国人がA2目標講習を受講する機会を提供する義務があります。育成就労実施者には、育成就労外国人の希望に応じ、講習を受講させる場合の講習費用を負担し、かつ、適切に講習を受講する環境を整えることが求められます。
育成就労制度 運用要領(令和8年8月)
そして、果たされなかった場合の帰結も明記されています。
3年間の育成就労期間中に育成就労外国人に必要なA2目標講習の受講機会を与えなかった場合には、育成就労計画の認定の取消し等の対象となります。
同上
一方で、受講時間を労働時間として扱うことは義務ではないとも書かれています。就労時間内に行う必要はありません。ここは制度上の要求と、実際に受講が続くかどうかの運用が分かれる箇所です。
記録の保管まで含めて義務です
A1相当講習は、受講完了資料(認定日本語教育機関からの受講証明書等)を入国前講習実施記録または入国後講習実施記録とともに保管します。A2目標講習は、育成就労計画の履行状況に関する管理簿とともに保管します。受講予定は育成就労計画の認定申請時に申告します。申告した受講予定日と実際の受講日がずれた場合、その報告は不要ですが、機会そのものを与えなかった場合は上記のとおり取消し等の対象です。
誰が実施できるのか — ここが企業の選択肢を決めます
原則は、文部科学大臣の認定を受けた認定日本語教育機関の「就労のための課程」です。ただし運用要領には経過措置が置かれています。
A1相当講習は、文部科学大臣の認定を受けた認定日本語教育機関の「就労のための課程」が基本ですが、当分の間の経過措置として、文部科学大臣の登録を受けた登録日本語教員の資格を持つ者による講習でも可としています。
同運用要領(A2目標講習についても同旨。附則規則第3条第1項・第2項)
登録日本語教員による講習が認められるための要件は、A1・A2いずれも同じ形で4つ定められています。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 目標 | A1相当/A2相当(分野別運用方針がより高い水準を定める場合はその水準) |
| 時間 | 100時間以上 |
| 定員 | 登録日本語教員1人に対して、同時に受講する生徒が20人以下 |
| オンライン | 対面以外で実施する場合は、インターネット環境を整えて、同時かつ双方向に行われること |
なお、認定日本語教育機関が実施する「就労のための課程」については、認定基準第23条に基づく「特別の日本語教育課程」として実施することも認められ、その場合は講習の全部を対面以外の方法で受講することも可能とされています。
研修会社を選ぶ前に確認すべきことは、この一段落に集約されます。提供者が認定日本語教育機関の「就労のための課程」なのか、登録日本語教員による経過措置なのか。後者であれば、同時受講者が20人以下に収まるか、オンラインが同時双方向か、そして受講証明書を発行できるか。この4点を満たさない講習は、時間数を満たしても制度上の要件を満たしません。
当社の立場をはっきり書いておきます
United World Nihongo は認定日本語教育機関ではありません。したがって、当社の研修が育成就労制度上のA1相当講習またはA2目標講習の要件を満たすとは申し上げていませんし、満たすという前提でのご提案もしていません。登録日本語教員による経過措置に該当するかどうかは講師個人の資格に依存するため、制度対応を目的とされる場合は、まず認定日本語教育機関にご相談ください。
当社がお役に立てるのは、制度上の要件とは別に必要になる、業務のための日本語です。A2相当は「職場で最低限の意思疎通ができる」水準として設定されたもので、実際の業務で必要な語彙・場面・手順の日本語がそれで足りるとは限りません。制度対応と業務対応は目的が違うため、どちらが必要かを切り分けたうえでご相談ください。
よくあるご質問
「入国後講習320時間」は全部が日本語研修ですか。
違います。320時間は入国後講習の総時間数で、日本語以外の科目(本邦での生活一般に関する知識など)を含みます。そのうち日本語科目として必須とされているA1相当講習は100時間以上です。この2つを同じ数字として扱っている解説を見かけますが、運用要領では別の数字として書き分けられています。
A1相当の試験に合格していれば、入国後の日本語講習は不要ですか。
A1相当講習の受講は不要になります。ただし入国後講習そのものが不要になるわけではなく、総時間数は220時間以上(入国前講習を110時間以上受講している場合は110時間以上)必要です。この場合の日本語科目は、より高い水準を目指す講習や、分野・地域に応じて必要となる日本語の講習を行うこととされています。
A2目標講習は就業時間内に行う必要がありますか。
運用要領は、A2目標講習の受講時間を労働時間とすることは義務ではないとしています。就労時間内に行わなければならないものではありません。ただし費用の負担と、適切に受講できる環境を整えることは企業に求められています。
受講機会を提供しなかった場合、どうなりますか。
運用要領は「3年間の育成就労期間中に育成就労外国人に必要なA2目標講習の受講機会を与えなかった場合には、育成就労計画の認定の取消し等の対象となります」と明記しています。個別の処分の可否や程度については、行政の判断であり、法的な評価が必要な場合は弁護士にご相談ください。
登録日本語教員による講習は、いつまで認められますか。
運用要領は「当分の間の経過措置」としており、本記事の確認範囲では終期は示されていません。終期が示されていない以上、経過措置を前提にした長期の体制設計は避け、認定日本語教育機関による実施も選択肢として並行してご検討されることをお勧めします。
時間数や水準は今後変わりますか。
変わりえます。育成就労産業分野によってはA1相当・A2相当を超える水準が定められる場合があるため、分野別運用方針の確認が必要です。また運用要領自体が改訂されており、本記事が参照しているのは令和8年8月版です。日本語講習モデルカリキュラムは令和8年度中に公表予定とされています。