職場の「やさしい日本語」——入管庁・文化庁のガイドラインで社内文書と指示を書き換える
社内文書をやさしい日本語に書き換えるときは、出入国在留管理庁と文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」にある3つのステップを使うのが早道です。日本人にわかりやすくし、次に外国人にもわかりやすくし、最後にわかりやすさを確認します。就業規則は厚生労働省の「モデル就業規則やさしい日本語版」、安全掲示は同省の注意喚起文、口頭の指示は東京労働局の「はさみ」(はっきり、最後まで、短く)から始められます。いちばん抜けやすいのは最後の確認のステップです。「わかりましたか」と聞くのではなく、本人の言葉と動作で確かめてください。
執筆:United World Nihongo 編集部/公開日:2026年11月3日/出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」、法務省 広報誌「やさしい日本語を使おう!」、厚生労働省「外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?」「外国人労働者の労働災害防止のための表示」、東京労働局「カインドコミュニケーションを心掛けましょう!」/確認日:2026年9月1日
ガイドラインは何のための資料か
「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、令和2年8月28日に公表されました。作ったのは出入国在留管理庁と文化庁です。
出入国在留管理庁及び文化庁は,国や地方公共団体が外国人向けに情報発信を行う際にやさしい日本語を用いることに資するように,「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を策定しました。
出入国在留管理庁・文化庁「『在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン』の公表について」
作成にあたっては、学識有識者、地方自治体、外国人支援団体の関係者などが参加する有識者会議が開かれました(文化庁)。
このガイドラインは、国や自治体が情報を発信するときのためのもので、企業向けに作られたものではありません。それでも、書く側の手順として示されている3つのステップは、行政の文書にも社内文書にも同じように当てはめられます。以下の当てはめ方は、本記事の編集部による提案です。ガイドラインが企業に向けて書いている内容ではありません。
3つのステップを社内文書に当てはめる
法務省の広報誌では、ガイドラインの手順を次の3つのステップで紹介しています(法務省)。
ステップ1 日本人にわかりやすい文章 ステップ2 外国人にもわかりやすい文章 ステップ3 わかりやすさの確認
法務省 広報誌「やさしい日本語を使おう!~在留支援のための~」
社内でよく使う3種類の文書に、この順番で当てはめると次のようになります。
| ステップ | 就業規則 | 安全掲示 | 作業指示書・口頭の指示 |
|---|---|---|---|
| 日本人にわかりやすくする | 日本人社員でも読み返す長い一文や、「〜の場合を除き」のような入れ子の条件を先に整理する | 何をするのか、何をしてはいけないのかを最初に書く | 手順を、行う順番どおりに並べ直す |
| 外国人にもわかりやすくする | 厚生労働省の「モデル就業規則やさしい日本語版」と照らし合わせ、言い回しを参考にする | 厚生労働省の注意喚起文(やさしい日本語版・外国語版)を出発点にする | 東京労働局の「はさみ」に沿って、短く区切り、最後まで言い切る。オノマトペを使わない |
| わかりやすさを確認する | 要点を本人の言葉で言い直してもらう | 掲示を見て、何をするかを答えてもらう | 実際に動作で示してもらう |
就業規則:正式な規則と説明用の文書を分けて考える
厚生労働省は、外国人社員向けに就業規則を作るときに使える「モデル就業規則やさしい日本語版」を公開しています(厚生労働省)。自社の規則をゼロから書き換えるより、対応する条文を探して言い回しを借りるほうが早く進みます。
注意したいのは、書き換えた文書の位置付けです。やさしい日本語版を正式な規則として扱うのか、説明用の資料として扱うのか、効力にかかわる判断は弁護士の領分です。社内だけで決めず、専門家に確認してください。
安全掲示:公開されている注意喚起文から始める
厚生労働省の労働災害防止用の注意喚起文は、日本語とやさしい日本語のほか、英語、中国語、ベトナム語、タガログ語、インドネシア語、ポルトガル語、スペイン語、ネパール語、ミャンマー語の9つの外国語で用意されています。目的は次のように書かれています。
本イラスト及び注意喚起文は、これらの対策でも除去できないリスクについて、外国人労働者が直感的に理解し、リスクを回避する行動がとられることを期待するものです。
厚生労働省「外国人労働者の労働災害防止のための表示(イラスト、注意喚起文)」
つまり掲示は、設備や手順で取り除けなかったリスクに対する最後の手段です。掲示を書き換える前に、その危険を掲示に頼らずに減らせないかを先に確認してください。
作業指示書と口頭の指示:「はさみ」で区切る
東京労働局は、外国人への教育や指導の際に「はっきり、最後まで、短く(はさみ)」伝えることを勧めています。あわせて、ジェスチャーや実物を見せること、オノマトペ(擬音語・擬態語)を使わないことを、やさしい日本語の工夫として挙げています(東京労働局)。
次の表は、本記事の編集部が作った書き換え例です。ガイドラインや例文集からの引用ではありません。
| 元の文 | 書き換え例 | 変えたところ |
|---|---|---|
| 作業終了後は、速やかに工具を所定の場所に戻しておくこと。 | 作業が終わったら、すぐに工具を棚に戻してください。 | 漢語を日常の言葉にし、「所定の場所」を具体的な場所にした |
| 異常を感じた場合は、無理に作業を継続せず、責任者に報告しないということがないようにしてください。 | おかしいと思ったら、作業を止めてください。そして、リーダーに言ってください。 | 二重否定をやめ、文を分けて、行動の順に並べた |
| ボルトはギュッと締めといて。 | ボルトを強く締めてください。回らなくなるまで締めてください。 | オノマトペと縮約形をやめ、最後まで言い切った |
書き換えた文が伝わったかを確かめる
ガイドラインは、手順の最後に「わかりやすさの確認」を置いています。書き換えて配って終わりにすると、このステップが抜けます。社内で確認する具体的な方法として、編集部は次のやり方を提案します。
「わかりましたか」で終わらせない
「わかりましたか」と聞けば、わかっていなくても「はい」と答えられます。はい・いいえで答える質問は、確認になりません。
本人の言葉で言い直してもらう
「次に何をしますか」「これをしてはいけないのは、どんなときですか」のように、答えが文になる質問をします。言い直しが元の指示とずれていたら、ずれた部分が書き換えの直しどころです。
動作で見せてもらう
作業の指示であれば、口で答えてもらうより、実際に手を動かしてもらうほうが確実です。東京労働局が挙げているとおり、実物を見せながら行うと、言葉だけに頼らずに済みます。
配る前に試し読みしてもらう
就業規則の説明文書や掲示は、配布や掲示の前に外国籍社員に読んでもらい、わからなかった言葉に印を付けてもらいます。印の付いた言葉を社内の言い換えリストにまとめておくと、次の文書を書くときに使えます。
確認したことを記録する
どの文書を、いつ、誰に確かめてもらったかを残しておきます。規則や手順が変わったときに、どの書き換えを見直せばよいかがすぐにわかります。
厚生労働省の例文集をどう使うか
厚生労働省の「ポイント・例文集」は、雇用管理の場面を全9カテゴリーに分けて扱っています。
(2)実際に外国人の方にそのまま話したり見せたりして理解していただくことを目指した「やさしい日本語」による説明の例文や図表を紹介しています。
厚生労働省「外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?」
説明の文を一から考える前に、例文集に同じ場面がないかを探してください。見つかったら、社内の呼び方(部署名、書類名、設備名)だけを自社のものに置き換え、上のステップに沿って確認します。そうすると、書き換えの作業はほぼ確認だけになります。
書き換えだけでは足りない場面
やさしい日本語は、会社の側が言葉を外国籍社員に歩み寄らせる方法です。一方で、職場で使う言葉を社員自身が理解し、使えるようになる側の取り組みもあります。言い換えリストに集まった言葉は、そのまま研修で扱う語彙の候補になります。
書き換えと研修をどう分担するかは、職場の状況によって変わります。定着に向けた取り組み全体の考え方は、定着のガイドにまとめています。
よくある質問
やさしい日本語のガイドラインは企業向けの資料ですか?
「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」は、国や地方公共団体が外国人に情報を発信する際に使えるよう、出入国在留管理庁と文化庁が策定したものです。企業向けではありませんが、日本人にわかりやすくする、外国人にもわかりやすくする、確認する、という手順は社内文書にも使えます。
就業規則をやさしい日本語にするには何から始めればよいですか?
厚生労働省が公開している「モデル就業規則やさしい日本語版」と自社の就業規則を照らし合わせ、対応する条文の言い回しを参考にする方法が始めやすいです。やさしい日本語版をどう位置付けるか、効力にかかわる判断は弁護士の領分です。
安全掲示を外国語に翻訳すれば、やさしい日本語は不要ですか?
厚生労働省の労働災害防止用の注意喚起文は、やさしい日本語と9つの外国語で用意されています。ただ、職場には母語の違う社員が一緒に働いていることも、口頭で指示する場面もあります。翻訳とやさしい日本語は、どちらかを選ぶものではなく、併用するものと考えてください。
書き換えた指示が伝わったかは、どう確かめればよいですか?
「わかりましたか」と聞くと、わからなくても「はい」と答えられてしまいます。次に何をするかを本人の言葉で言い直してもらう、実際に動作で示してもらう、配布前に外国籍社員に試し読みしてもらう、という方法で確かめます。
口頭の作業指示では何に気をつければよいですか?
東京労働局は、外国人への教育や指導では「はっきり、最後まで、短く(はさみ)」伝えること、ジェスチャーや実物を見せること、オノマトペ(擬音語・擬態語)を使わないことを挙げています。「ギュッと締める」ではなく「強く締める」のように言い換えます。