外国籍社員の日本語研修は労働時間か——厚生労働省ガイドラインで判断する業務時間外・自由参加の扱い
日本語研修が労働時間に当たるかどうかは、「業務時間外」「自由参加」という呼び方ではなく、受講が使用者の指揮命令下にあったと評価できるかで決まります。所定時間内に行う研修や、受講を業務上義務づけた研修は、労働時間として扱う必要があります。業務時間外の自由参加とした研修でも、受講の指示、不参加による不利益、日本語ができないと業務ができない状況などがあれば、事実上の強制として労働時間に当たり得ます。
執筆: United World Nihongo 編集部 / 公開日: 2026年10月1日 / 出典: 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」、厚生労働省リーフレット「「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方」 / 確認日: 2026年9月1日
厚生労働省の定義:労働時間は「指揮命令下に置かれている時間」
判断の土台になるのは、厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインです。このガイドラインは平成29年1月20日に策定されました。労働時間の定義は次のとおりです。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
人事担当者が押さえておくべき点は二つあります。一つ目は、就業規則で「自由参加」と定めても、それだけで労働時間から外れるわけではないことです。ガイドラインは、労働時間に当たるかどうかは労働契約・就業規則・労働協約等の定めにかかわらず、指揮命令下に置かれていたと評価できるかで客観的に決まるとしています。
二つ目は、判断が個別具体的に行われることです。ガイドラインは、労働者の行為が使用者から義務づけられていたか、余儀なくされていたかといった状況から判断するとしています。つまり、制度の名前ではなく、受講の実態が問われます。
研修・教育訓練について厚生労働省が示している基準
労働時間として扱わなければならないもの
ガイドラインは、労働時間として扱わなければならない時間の一つとして、次の時間を挙げています。
ウ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
また、厚生労働省のリーフレットは、所定時間内など業務中に行う教育・訓練は基本的に労働時間に該当するとしています。勤務時間中に会議室で行う日本語クラスは、通常この区分に入ります。
労働時間に該当しないもの
同じリーフレットは、業務上義務づけられていない自由参加の研修・教育訓練の時間は労働時間に該当しないとしています。業務時間外の日本語研修を労働時間の外に置けるのは、この「自由参加」が実態として成り立っている場合です。
「自由参加」が崩れる場合
リーフレットは、形式上の自由参加が事実上の強制になる場合を次のように説明しています。
研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当します。
厚生労働省リーフレット「「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方」
さらにリーフレットは、明示的な指示がなくても、実質的に指示があったとして労働時間に該当すると判断されるケースがあるとしています。「出なさい」と言っていないことは、自由参加の証明になりません。
厚生労働省の事例を日本語研修の場面に置き換える
リーフレットに挙がっている事例は語学研修ではありません。下の表では、左の二列に厚生労働省の事例と判断を、右の列に日本語研修で構造が近い場面を並べました。右の列は当編集部による置き換えであり、厚生労働省の判断ではありません。
| 厚生労働省の事例 | リーフレットでの扱い | 日本語研修で構造が近い場面 |
|---|---|---|
| 自主的なスキルアップのためのweb学習ツールを提供しているが、受講を指示せず、習熟度を測る試験も実施せず、受講状況を人事評価に反映させていない(情報通信業) | 労働時間に該当しない例 | 日本語学習アプリのアカウントを希望者に配るだけで、受講の指示・社内テスト・評価への反映をしていない |
| 自由参加のサークル活動とされた勉強会だが、使用者が参加者・日時・場所を決め、参加後にレポート提出を求め、遅刻や欠席に指導をしていた(学習塾) | 労働時間に該当すると考えられる例 | 「自由参加」の終業後日本語クラスだが、会社が受講者と日時を決め、宿題の提出を求め、欠席した社員を上司が注意している |
| 形式上は自由参加の研修だが、受講が正社員になる要件とされ、参加できるよう使用者がシフトを調整していた(小売業) | 事実上参加が強制されていた、労働時間に該当すると考えられる例 | 日本語クラスの受講を登用や昇格の要件にし、受講できるよう会社がシフトを組み替えている |
外国籍社員の日本語研修で任意性が崩れやすい点
研修一般と比べて、外国籍社員の日本語研修には「自由参加」が実態として崩れやすい事情があります。
- 日本語が業務の前提になっている。リーフレットは「不参加によって業務を行うことができなかったりする」場合を事実上の強制に挙げています。日本語ができないと作業指示を受けられない、安全上の説明が理解できない配置であれば、研修への不参加が業務の遂行に直結します。
- 「自由参加」の意味が本人に伝わっていない。ガイドラインは、余儀なくされていたかどうかという状況を見るとしています。日本語で書いた案内文だけでは、参加しなくても不利益がないことを本人が理解できていない場合があります。任意であることは、本人が理解できる言語で伝えておくことが実務上の備えになります。
- 上司や先輩の声かけが実質的な指示になる。明示的な指示がなくても実質的な指示と判断されるケースがあるとリーフレットは説明しています。「みんな出ているよ」という声かけが続けば、自由参加の実態は弱まります。
- 受講状況や試験結果を評価に使う。web学習ツールの例が労働時間に該当しないとされた条件には、試験を実施しないこと、受講状況を人事評価に反映させないことが含まれています。日本語の社内テストの点数を評価面談で扱えば、この条件から外れます。
本人の申告と労働時間の記録
外国籍社員が「自分で勉強していた」と申告していても、それで判断が決まるわけではありません。ガイドラインは次のように定めています。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
また、ガイドラインは、使用者が労働日ごとの始業・終業時刻を確認して記録することを求めています。日本語研修を労働時間として扱う場合は、受講時間も含めて始業・終業時刻を記録する必要があります。ガイドラインは、賃金台帳に労働時間数等を記入しない場合や、故意に虚偽の労働時間数を記入した場合は、労働基準法第120条に基づく罰則の対象になるとしています。
自由参加として扱う場合も、その判断の根拠を残しておくと、後から実態を説明しやすくなります。たとえば、受講を指示していないこと、欠席に対して指導や不利益を与えていないこと、受講状況や試験結果を人事評価に使っていないことを、研修の案内と運用の両方で確認できるようにしておきます。ただし、書面を整えても、労働時間かどうかは実態で客観的に判断される点は変わりません。
研修を設計するときの二つの選択肢
所定時間内に実施し、労働時間として扱う
業務に必要な日本語を身につけてもらう研修であれば、所定時間内に実施し、受講時間を労働時間として扱う設計がもっとも判断に迷いません。受講を指示でき、出欠の管理や理解度の確認も行えます。シフトや人員配置の調整が必要になる点が検討事項です。
業務時間外の自由参加として扱う
本人の自己啓発として学習機会を用意する場合は、自由参加の実態を保つ必要があります。受講を指示しない、受講者や日時を会社が割り当てない、課題の提出や欠席への指導をしない、受講状況や試験結果を評価や登用の要件にしない、という条件を運用の中で守れるかを確認してください。どれかを満たせないなら、所定時間内の研修として設計し直すほうが実態に合います。
判断に迷うときの相談先
厚生労働省のリーフレットは、個別の労働時間の取扱いの相談先として都道府県労働局(監督課)と労働基準監督署を挙げています。個別の事案についての判断や、社員との紛争に関わる判断は弁護士の領分です。本記事は一般的な考え方の整理であり、個別の事案についての判断を示すものではありません。
なお、育成就労制度における日本語学習に関する要件は、本記事で扱う労働時間の論点とは別の問題です。制度上の要件については育成就労制度のガイドを参照してください。
よくある質問
終業後に任意参加の日本語クラスを開けば、労働時間にはなりませんか。
任意参加と定めただけでは決まりません。厚生労働省は、労働時間かどうかは就業規則等の定めによらず、指揮命令下にあったと評価できるかで客観的に決まるとしています。受講の指示や欠席への指導があれば労働時間に当たり得ます。
日本語学習アプリを社員に配るだけなら、学習時間は労働時間ですか。
厚生労働省のリーフレットは、受講を指示せず、習熟度試験も行わず、受講状況を人事評価に反映させないweb学習ツールの提供を、労働時間に該当しない例として挙げています。これらの条件が崩れると判断も変わり得ます。
日本語の受講を昇格の条件にすると、受講時間は労働時間になりますか。
一律には言えません。ただし厚生労働省は、受講が正社員になる要件とされ、参加できるようシフトが調整されていた研修を、事実上の強制として労働時間に該当すると考えられる例に挙げています。近い設計なら労働基準監督署へ確認してください。
社員本人が「自主的に勉強していた」と申告した時間はどう扱いますか。
本人の申告だけでは決まりません。厚生労働省のガイドラインは、自主的な研修・学習のため労働時間ではないと報告されていても、実際に指揮命令下に置かれていたと認められる時間は労働時間として扱わなければならないとしています。
日本語研修の労働時間の扱いは、どこに相談すればよいですか。
厚生労働省のリーフレットは、個別の労働時間の取扱いの相談先として都道府県労働局(監督課)と労働基準監督署を挙げています。個別の事案の判断や社員との紛争に関わる判断が必要な場合は、弁護士に相談してください。