法人日本語研修の費用相場は公的統計で確認できるのか——助成制度から逆算する予算の立て方
法人向け日本語研修の時間単価や月額の相場を示した公的統計は、確認日時点で見つかりません。費用について一次情報で確認できるのは、企業の教育訓練費全体の水準(厚生労働省の令和7年度能力開発基本調査が示すOFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額2.0万円)と、助成制度が定める上限額(東京都の助成金は一般コース標準プランで経費の2分の1・最大25万円)の二つだけです。したがって予算は、出典の示されていない相場表に合わせるのではなく、助成制度が定める要件を満たす形で研修を設計し、そこから自社の負担額を決める順序で立てるほうが確実です。
執筆:United World Nihongo 編集部|公開日:2026年9月1日|出典:東京都産業労働局「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」(TOKYOはたらくネット)、厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」、厚生労働省「人材開発支援助成金」|確認日:2026年9月1日
この記事には、実施形態別の時間単価表を載せていません。公表されている一次情報で裏づけられる数値がないためです。書けるのは、公的統計で確認できる教育訓練費の水準、助成制度が募集要項で定めている要件と上限額、そして見積を比較するときに自社で確認できる項目の三つです。それ以外は、確認できないものとして扱います。
「相場」として示されている数値を、社内資料に転記する前に
検索すると、実施形態ごとに時間単価の幅を並べた表が数多く見つかります。参照すること自体を否定はしませんが、稟議書に「相場はこの範囲だから」と書ける性質の数値かどうかは、次の三点で判断できます。
1. 算出の母集団と件数が示されているか
その幅が何社の見積から集計されたのか、自社の受注実績なのか、他サイトからの引き写しなのかが書かれていなければ、代表性を確かめる手立てがありません。母集団の説明がない数値は、社内で根拠を問われた時点で使えなくなります。
2. いつ時点の数値か
人件費の影響を受ける費目である以上、いつ時点の水準なのかが分からない数値は、いま取った見積と比較できません。ページの更新日と調査時点は別物で、更新日だけが新しい表もあります。
3. 単価に含まれる作業の範囲は同じか
レベル判定、カリキュラム設計、教材の用意、受講記録と報告書の作成、講師の移動時間を単価に含めるかどうかは、事業者によって異なります。範囲の違う単価どうしを並べても、安い高いの比較にはなりません。
つまり、他社が示すレンジの当否を論じるより、自社の条件で見積を複数社から取り、含まれる範囲をそろえて比べるほうが早く、確実です。
公的統計で確認できるのは、企業の教育訓練費の水準まで
研修費用について国が継続して調べているのが、厚生労働省の「能力開発基本調査」です。令和7年度の結果は、次のとおり公表されています。
OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額※は2.0万円(前回より0.5万円増加)
厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(確認日:2026年9月1日)
自己啓発支援に支出した費用の労働者一人当たり平均額※は0.4万円(前回から横ばい)
厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(確認日:2026年9月1日)
この調査は令和7年10月1日時点の状況について実施され、企業調査の有効回答は7,452企業です。企業調査・事業所調査の対象は、常用労働者30人以上を雇用している企業・事業所とされています。
この数値を日本語研修の相場に読み替えられない理由
公表されているのは、企業全体の教育訓練費を労働者一人当たりに換算した平均額です。研修分野別の単価ではなく、外国人社員の日本語研修に限った金額でもなく、受講した人だけで割った金額でもありません。したがって「日本語研修は一人2.0万円」と読み替えることはできません。この数値が使えるのは、自社の教育訓練費の総額が、常用労働者30人以上の企業の平均的な水準と比べてどのあたりにあるかを確認する場面までです。
逆に言えば、日本語研修の費用について金額を一次情報で示せる部分は、以下の助成制度に集中しています。
東京都の助成金:日本語教育を名指しで対象にした制度
都内の中小企業向けに、外国人従業員の日本語教育を対象として明示した制度があります。東京都産業労働局の「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」です。募集要項は、助成対象を次のように定めています。
日本語能力試験概ねN2レベル以下の外国人従業員を対象とした、ビジネスに必要な日本語教育等で以下の内容
東京都産業労働局「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」(TOKYOはたらくネット、確認日:2026年9月1日)
一般コースの助成率・上限額・受講時間数
| プラン | 助成率 | 上限額 | 受講時間数の下限 |
|---|---|---|---|
| 一般コース 標準プラン | 助成対象事業の経費の2分の1 | 25万円 | 50時間以上 |
| 一般コース 短時間プラン | 助成対象事業の経費の2分の1 | 15万円 | 30時間以上 |
このほかにウクライナ避難民採用企業コースが設けられており、助成率は助成対象事業を実施する上でかかる経費の10分の10、標準プランの助成限度額は50万円と公表されています。
助成対象事業は4区分で、単体では対象にならない講座がある
①日本語教員による日本語教育 ②日本語教材の作成(日本語教員が作成したものに限る) ③ビジネスマナー講座 ④異文化理解に係る講座
東京都産業労働局「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」(TOKYOはたらくネット、確認日:2026年9月1日)
ビジネスマナー講座と異文化理解に係る講座は、単体では助成対象事業になりません。日本語教育または日本語教材の作成と組み合わせて実施する必要があります。研修の中身を先に決めてから助成金を探すと、この組み合わせの条件で設計をやり直すことになります。
助成対象となる経費の費目
日本語教育等に係る報償費、消耗品費、旅費、印刷製本費、委託料、使用料及賃借料です。
東京都産業労働局「中小企業の外国人従業員に対する研修等支援助成金」(TOKYOはたらくネット、確認日:2026年9月1日)
外部の事業者に研修を委託する場合、その費用が委託料としてこの区分に収まるかどうかを募集要項で確認したうえで、見積の費目を整えることになります。総額だけが書かれた見積は、この段階で作り直しが必要になります。
募集受付期間
令和8年度の募集受付期間は、令和8年4月9日から令和9年1月14日までと公表されています。研修を年度内に実施したい場合は、この期間、社内の予算編成の時期、講師と受講者の日程調整に必要な期間を並べて逆算することになります。都外の事業所は対象外です。自治体ごとに制度の有無と内容が異なるため、所在地の自治体の公式サイトで確認してください。当サイトでは、確認していない自治体の制度について金額や要件を推測して書くことはしません。
上限額から自社の負担を逆算する
助成率と上限額が分かっていると、相場を知らなくても予算の輪郭は引けます。順序は次のとおりです。
- 一般コースの助成率は経費の2分の1です。したがって、助成対象経費が上限額の2倍に達した時点で助成額は頭打ちになり、それを超える分は全額が自社負担になります。予算の上振れは、この境界を越えたところで一気に効いてきます。
- 受講時間数の下限を満たさない研修は、対象になりません。標準プランは50時間以上、短時間プランは30時間以上です。回数を削って費用を抑える判断が、助成の対象から外れる判断になっていないかを先に確かめます。
- 助成されるのは対象となる費目の経費です。見積の内訳が費目に対応していなければ、費用そのものは妥当でも申請でつまずきます。
ここで一つ注意があります。上限額を受講時間数の下限で割れば時間単価らしき数字が出ますが、それは制度の上限から導かれる計算値にすぎず、市場価格でも当社の価格でもありません。助成の上限額は、費用の水準を示すために定められたものではないためです。社内資料に相場として転記しないでください。
人材開発支援助成金は、日本語研修専用の制度ではない
厚生労働省の人材開発支援助成金も候補に挙がりますが、位置づけが東京都の制度とは異なります。制度案内は、人材育成支援コースの対象を次のように説明しています。
雇用する被保険者に対して、職務に関連した知識・技能を習得させるための訓練、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成
厚生労働省「人材開発支援助成金」(確認日:2026年9月1日)
助成の対象は職務に関連した訓練であり、日本語研修に限定した制度ではありません。自社の日本語研修がこの制度の訓練に当たるかどうか、また支給要件を満たすかどうかの判断は、所管の都道府県労働局が行います。研修の内容・時間・対象者が固まる前に相談しておくと、設計のやり直しを避けられます。
見積を比較するときに、自社で確認できる項目
相場が分からなくても、見積の妥当性は比較で確かめられます。複数社に依頼する際、次の項目を同じ条件で書いてもらうよう指定すると、金額だけを並べた比較表よりも判断材料になります。
| 確認する項目 | なぜ比較に効くか |
|---|---|
| 受講前のレベル判定の有無と方法 | 開始レベルが定まらなければ到達目標も所要回数も決まらず、追加費用の温床になります。 |
| 到達目標の書き方 | 「日常会話ができる」ではなく、業務上のどの場面で何ができる状態かが書かれているかを見ます。 |
| 1回あたりの時間・回数・期間 | 総額が同じでも、単位が違えば途中で中断したときの精算条件が変わります。 |
| 教材費・カリキュラム設計費の扱い | 単価に含むか別建てかで総額が動き、助成金の対象経費の費目にも関わります。 |
| 受講記録・報告書の様式 | 助成金の申請と実績報告で求められる資料と対応しているかを確認します。 |
| 講師の移動時間・交通費 | 訪問形式では総額への影響が大きく、オンラインとの比較を左右します。 |
予算を立てる順序
- 対象者を確定する。人数、勤務地、現在の日本語のレベルを一覧にします。助成制度の要件は、ここで満たせるかどうかが決まります。
- 使える制度を洗い出す。都内の中小企業であれば東京都の助成金、職務に関連した訓練として実施するなら人材開発支援助成金が候補です。所管窓口に相談し、申請の期限を確認します。
- 到達目標を業務の場面で定義する。「報告を口頭でできる」「顧客からの電話を取り次げる」といった水準に落とすと、必要な回数の見当がつきます。
- 受講時間数が制度の下限を満たす設計になっているかを確かめる。
- 見積を複数社から取り、前の表の項目をそろえて比較する。総額ではなく、含まれる範囲をそろえてから比べます。
- 対象経費の費目に合わせて内訳を整理し、自社の負担額を確定する。実績報告に必要な記録の様式も、この段階で事業者と合意しておきます。
この記事で書かないこと
United World は認定日本語教育機関ではありません。したがって、育成就労制度その他の制度が定める要件を当社の研修によって満たせるとは申し上げられません。制度上の義務は受入れ企業に課されるものであり、その内容は企業側の義務として別記事で整理しています。また、助成金の支給決定や要件該当性の判断は、所管する都道府県労働局および自治体の窓口が行います。この記事は法的な助言ではなく、契約や雇用条件に関わる判断は弁護士の領分です。必要に応じて専門家にご相談ください。
よくあるご質問
法人向け日本語研修の費用相場は、公的統計で確認できますか。
確認日時点で、法人向け日本語研修の時間単価や月額の相場を示した公的統計は見つかりません。厚生労働省の能力開発基本調査が示すのは企業の教育訓練費全体の水準であり、日本語研修に限った単価ではないため、相場の根拠としては使えません。
能力開発基本調査のOFF-JT費用2.0万円を、一人あたりの予算の目安にできますか。
OFF-JTに支出した費用の労働者一人当たり平均額2.0万円は、常用労働者30人以上の企業を対象とした調査で、教育訓練全体の支出を労働者一人当たりに換算した値です。日本語研修の受講者一人あたりの費用ではないため、研修分野別の目安として使うことはできません。
東京都の助成金は、いくらまで助成されますか。
一般コースは助成対象事業を実施する上でかかる経費の2分の1が助成され、上限は標準プランで25万円、短時間プランで15万円です。ウクライナ避難民採用企業コースでは助成率が経費の10分の10、標準プランの助成限度額は50万円と公表されています。
ビジネスマナー研修だけでも、東京都の助成金の対象になりますか。
ビジネスマナー講座と異文化理解に係る講座は、単体では助成対象事業になりません。日本語教員による日本語教育、または日本語教員が作成した日本語教材の作成と組み合わせて実施する必要があると募集要項に示されています。
人材開発支援助成金は、日本語研修に使えますか。
人材開発支援助成金は、職務に関連した知識・技能を習得させる訓練などを実施した事業主に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度で、日本語研修に限定した制度ではありません。自社の研修が対象になるかどうかは、所管の都道府県労働局にご確認ください。
助成金の上限額を受講時間数で割れば、単価の目安が出せますか。
上限額を受講時間数の下限で割った値は、制度の上限から導かれる計算値であり、市場価格でも当社の価格でもありません。助成の上限額は費用の水準を示すために定められたものではないため、単価の目安として社内資料に転記することは避けてください。